5.閉鎖性海域の水質・底質の改善に関する研究テーマ
研究の目的・背景
閉鎖性海域の水質・生態系は、陸域や大気境界からの負荷の影響を受けているばかりでなく、外海との海水交換や堆積物との物質交換を通じて変動している。特に代表的な水質劣化現象である内湾の貧酸素化には、外海との交換、堆積物による酸素消費過程が重要な役割を果たしていることが知られており、これらの境界での物質交換過程の理解が必要である。本研究テーマにおいては、特に湾口部における海水交換過程と、水・堆積物界面過程という二つの重要な境界過程に着目し、それらの境界過程と内湾の水質・底質変動の関連性を調べるものである。
港湾堆積物に対して、廃棄物の海洋投入を規制するロンドン条約96年議定書の批准に伴い、シルテーションの抑制手法や浚渫土砂を様々な用途に有効活用する技術開発が求められている。そのため、本研究テーマでは、まず海底面境界周辺での基礎的な物理・化学過程を解明し、再懸濁や堆積・物質変換過程を定量化すること、それらの応用として、堆積物に含有される化学物質が内湾の水質や生態系に及ぼす影響を把握することを目的とした調査研究を行っている。
研究の概要
湾口部境界での交換過程については、東京湾口及び伊勢湾口でフェリーを利用した流動及び表層水質のモニタリングを実施し、二つの湾の海水交換機構の違いや、貧酸素水塊の形成等にみられる内湾水質の変動と境界部での海水交換の関連性について解析する。海底境界層での物理過程に関しては、2006年度に海底流動実験水槽を整備し、東京湾や有明海で採取した現地底泥により様々な外力条件のもとで微細底泥粒子の巻き上げ特性に関する実験を行うとともに、現地での観測を実施して、外力と再懸濁過程に関するモデル化を行う。海浜におけるより幅広い粒径分布を持つ堆積物に対しては、外力とそれらの粒子の挙動を説明するモデル化を目指す。堆積物中で生じる物質変換過程に関しては、堆積物内部や海底境界層における溶存酸素や栄養塩の動態に関する解析モデルの開発を行う。また、港湾堆積物中の様々な化学物質濃度と底生生物の調査を行い、両者の関係を整理して化学物質の生物への影響度を調べ、有効利用の際に留意すべき点をまとめる。
2010年度の活動
東京湾及び伊勢湾口フェリーによる流動場の観測を2010年度においても継続して実施した。東京湾と伊勢湾でのモニタリングデータを比較することにより、湾口部での混合状態の違いがそれぞれの湾における貧酸素水塊の形成過程の差をもたらしていることを見いだした。また、羽田沖などでのビデオカメラによる地形変化のモニタリングを実施し、長期間にわたる観察結果から、大規模河川出水後に干潟地形が次第に回復している様子を捉えることができた。
次に、閉鎖性湾域での底層DO の主要な消費源である、堆積物による酸素消費過程に着目し、堆積物内部や海底境界層における溶存酸素やリンの動態に関する解析モデル開発を進めた。従来モデル化が進んでいた水理学的滑面ばかりでなく、粗面を含めたモデル化に成功し、予測精度の向上をもたらすことができた。海底境界層における物理的な輸送過程に関して、東京湾での観測の結果として、高濁度で高含水比を有する層が海底面を水平方向に移動する現象を捉えることに成功している。この現象に関して、2010年度には一次元モデルによる底泥層の流動評価を行った。
また、突堤や潜堤などの海岸構造物の設置による波・流れ、漂砂量の変化や、それらに伴う底質粒径の変化を予測する手法を提案し、特定の港湾での漂砂量予測に活かすことができた。このモデルは、今後幅広い条件での沿岸地形の変化や底質構成材料の変化予測に用いることができる。
最後に、沿岸海域において、有害性が既知の化学物質に対して、水中や堆積物、さらに底生生物や魚類などの生物体内中の調査結果を解析し、物質によって高次の生物への濃縮特性の違いが現れることを見いだした。様々な物質が新たに製造・使用されている現状の中では既に規制が行われている化学物質のみならず、今後対策が必要となりうる残留性の高い化学物質についても予防的な見地から予め影響評価を行う必要があることから、これらの物質をスクリーニングする手法の研究開発を進め、複数の候補物質について、東京湾ならびに伊勢湾名古屋港において実態把握調査を行った。
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モニタリングによって捉えられた東京湾の青潮(千葉港幕張付近)








