6.沿岸生態系の保全・回復に関する研究テーマ

研究の目的・背景

2002年度に「自然再生推進法」が成立し、以後、第6次及び第7 次水質総量規制の答申が出され、また東京湾、大阪湾、伊勢湾等の再生推進会議が発足するなど、沿岸域を取り巻く情勢は大きな転換期にある。特に、各内湾の再生目標は、従来の「きれいな海」の実現から、生物相の「豊かな海」の再生に転換しつつあるといえる。そのような背景のもとで、本研究テーマにおいては、再生目標に挙げられている豊かな沿岸生態系を保全・回復させるための技術開発や、沿岸生態系の成り立ちの基本構造を解明することを目的とした研究を進める。さらに、干潟や浅場・藻場造成、窪地の埋戻し修復といった様々な保全・回復メニューの効果を相互比較し、行政施策の適切メニューの選択や適地選定を行うためのツールとして、革新的な沿岸域生態系モデルの開発を行う。

一方、2009年に発行された国連環境計画UNEP 報告書において、沿岸生態系の働きによってCO2吸収・固定が極めて活発に行われており、地球温暖化の軽減を図るために藻場等の沿岸生態系を保全することが極めて重要であるとされ、ブルーカーボンという用語とともに一躍注目されている。本研究テーマにおいては、従来不明確であった沿岸生態系によるCO2固定量を定量化し、それらの機能を活用する方策を検討する。

研究の概要

本研究テーマにおいては、第一に豊かな海が実現している海域の例として亜熱帯生態系をとりあげ、その生態系の成り立ちを理解するための基礎研究を行う。第二に、干潟・藻場等の沿岸生態系の構造や機能を調査し、それらの造成や修復によって豊かな海を実現するための技術開発をめざす研究を推進する。第三に、新たな修復手法としての窪地埋戻し修復の効果を定量化し、浚渫土砂の生物生息場への有効利用を促進するための研究を実施する。

研究の実施にあたっては、干潟生態系研究に従来欠けていた地盤工学的な視点を取り入れた研究、高次生物の食性解析など、新たな研究手法を用いるとともに、これらの成果を取り入れた次世代型の沿岸域生態系モデル開発を行う。さらに、沿岸生態系によるCO2固定機能を現地観測等によって測定し、その効果を定量的に把握するとともに、その機能を促進するための方策を提案することを目指す。

2010年度の活動

2010年度においては、まず、地盤工学的な視点を取り入れた干潟の設計・施工技術に関する研究の一環として、底生生物と干潟の地盤工学指標との関連性に関する調査研究を進め、多様な底生生物に対して、室内実験における生態地盤実験と現地干潟での土砂環境と生物分布の関連性に関する調査を実施した。複数の底生生物の土砂環境の選択行動や生息分布形成について調べた。

干潟に飛来する主要な鳥類であるシギ・チドリ類の食性に関して、2010年度においては、これまでの観察結果を整理して、底泥表面のバイオフィルムが主として小型鳥類の餌となっていることを見いだし、そのことを生物進化的な見地から整理した。あわせて、干潟に集積する魚類についても、バイオフィルム食性を有する魚類が存在することを明らかにした。

沿岸生態系のCO2 固定機能を定量的に把握するとともに、機能をより促進するための研究を、2009年度より特別研究として開始している。2010年度においては、主として北海道風蓮湖を対象水域に選定し、湖沼での炭素フローと生物による固定量を定量化するための大規模な現地観測を夏季及び冬期に実施した。風蓮湖では、生態系の作用によって通年で無機炭素が吸収されていることを見いだした。

近年注目が集まっている窪地修復の課題に関して、2010年度においては、埋戻し以外の修復として中海で研究の一環として試行的に進められてきた高濃度酸素水の供給による水環境改善効果に着目し、曝気の継続期間とリンの溶出の抑制効果の関連性を解析した。あわせて、博多湾などで計画されている浚渫土砂を有効利用した埋め戻し技術についても情報を整理し、曝気による環境改善技術との比較評価を行った。

内湾の生態系モデルの開発に関しては、2010年度において、バクテリアループを含む新しい浮遊系(海水部分)生態系モデルを完成させることができた。モデルを簡易な底生系モデルと結合して伊勢湾に適用し、長期の水質変動計算を実施した。伊勢湾における密度成層化やそれに関連した貧酸素化の進行過程を再現するとともに、バクテリアが有機物生産や底層水の酸素消費に寄与する割合を定量化することができた。

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ブルーカーボンとして注目されている沿岸の海草藻類と干潟での調査風景

 

 

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