9.ライフサイクルマネジメントに関する研究テーマ
研究の目的・背景
既設港湾・海岸・空港の構造物については、供用中の機能・性能を要求レベル以上に確保するとともに、有効活用することが要請されている。このため、点検・診断、評価、将来予測、対策に関る技術を高度化し、これらによるマネジメントシステムを構築することが必要である。そこで、材料の耐久性向上や構造性能低下の予測、供用中の性能評価などの研究を進めるとともに、これらをマネジメントシステムという総合的(包括的)なシステムにまとめ上げるための研究を進め、ライフサイクルマネジメント(LCM)のシステム化を実現することを目的としている。
研究の概要
本研究テーマでは以下の3つのサブテーマを設けて研究を進めた。
- 点検・診断技術の高度化
- 海洋環境下にある構造物・部材の点検・診断の高度化及び省力化に関しては、検査用ビークルの運動性能の向上のための制御アルゴリズムの確立と、これを装置に反映させた検証実験を行った。また、診断技術に関しては、実構造物を対象とした多数の点検結果を整理・解析し、確率論的アプローチから新しい点検手法(場所の選定、頻度の選定)を検討した。
- 材料の劣化メカニズムの解明と劣化進行予測
- 構造物を構成する材料の劣化メカニズムを明らかにし、それに基づく劣化進行予測モデルを提案した。また、材料的観点からの予測と対策の技術確立のため、材料のリサイクルとライフサイクルとの関係を解明した。暴露環境を適切に評価する手法を実験的に検討し、暴露環境を考慮した劣化の進行予測手法について検討した。
- 構造物の性能低下の予測と補修効果の定量化
- 材料劣化に起因する構造性能低下のメカニズムを明らかにし、それに基づく性能低下予測モデル及び補修等による性能回復モデルを検討した。また、LCM システムにより提案される性能維持のためのシナリオを評価するため、ライフサイクルコスト(LCC)に加えて純現在価値(NPV)の導入を検討し、評価のためのスキームを検討した。
2010 年度の活動
- 既存構造物の性能を要求水準以上に確保し、ストックの有効活用と長寿命化を図るためには、構造物の点検・診断技術、保有性能の評価・予測技術、補修補強技術などを高度化し、これらを統合したライフサイクルマネジメントシステムを構築することが不可欠である。特に、現中期計画期間においては、係留施設を主な対象として、ライフサイクルマネジメントシステムを実用化するための研究を重点研究課題として取り組んだ。
- 2010年度は、ライフサイクルマネジメントシステムを実用化するために、 1.点検・診断技術の高度化、2.構造物の性能低下の予測と補修効果の定量化の観点から研究を進めた。
- 1.では、港湾構造物の点検診断、モニタリングの高精度化を目指し、非破壊試験技術を活用する検討を進めた。特に、コンクリート中の鉄筋の腐食、鋼材の腐食に関する非破壊評価方法の検討を実施しているが、下図 に示す桟橋の上部工において、コンクリート中の鉄筋の自然電位モニタリングを行い、鉄筋腐食の発生を検知することに成功した。また,部材に発生している応力を面的に非接触で検知する新技術の検討をした。
- 2.では、すでにとりまとめてある桟橋のライフサイクルマネジメント(LCM)システムをもとに、維持管理に配慮した構造形式の採用や予防保全的な維持管理の実施などのシナリオが経済的にどの程度有利になるのかを具体的な構造物を対象とした試計算によって明らかにした。また、これまで研究してきた主に桟橋を対象とするライフサイクルマネジメント技術に加え、他の形式の構造物の維持管理に関する研究として、ライフサイクルマネジメントの矢板式係船岸および重力式係船岸への展開を目的とする研究を実施した。
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桟橋上部工コンクリートにおける鉄筋腐食モニタリング
また、港湾施設のLCM技術の国内外での普及・活用のための取組みとして、「港湾構造物の戦略的維持管理に関する国際セミナー」(2011年2月)を開催したほか、日本-ASEAN交通連携プロジェクトの1つの活動の成果として、「港湾構造物の戦略的維持管理のためのガイドライン」を作成し、ウェブサイトに公開した。このガイドラインは、ASEAN各国が維持管理マニュアルを作成する際の基本的考え方を提供し、港湾構造物の点検診断・補修補強を実施する際の参考資料となるものである。








